
こんにちは!幻想イラストレーターの小林けいこです。
「シンデレラ」と聞いて、あなたはどんな場面を思い浮かべますか?
きらびやかなドレスに身を包んだ主人公が、カボチャの馬車に乗って舞踏会へ向かい、ガラスの靴を落として王子に見つけ出される——そんな物語が、多くの人の中にある「定番のシンデレラ」かもしれません。
けれど実は、世界にはさまざまな「シンデレラ」が存在します。
今回は、ディズニー映画の元になったとされるシャルル・ペロー版を中心に、グリム兄弟版、そしてさらに古いジャンバッティスタ・バジーレ版の3つを取り上げ、それぞれの違いを比較してみましょう。
私自身もまだまだ学びながらですが、読者の皆さんと一緒に、物語の奥深さを楽しんでいけたらと思います。
「シンデレラ」の語源について
「シンデレラ」という名前は、「灰(燃え殻)」を意味する言葉に由来しています。 英語では cinder、フランス語では cendre、ドイツ語では Asche、イタリア語では cenere など、いずれも「灰」を表します。 ペロー版の「サンドリヨン(Cendrillon)」や、グリム版の「アシェンプテル(Aschenputtel)」、バジーレ版の「チェネレントラ(Cenerentola)」といった各作品名は、こうした単語から派生したものであり、和訳の『灰かぶり姫』もそれらを踏まえた訳語です。
フランスのサンドリヨン ― シャルル・ペロー版

ペロー版は、現在よく知られている「シンデレラ」の物語に最も近い形をしています。
- 正式なタイトル:「サンドリヨン、または小さなガラスの靴」
- 特徴的な要素:カボチャの馬車、妖精の魔法、ガラスの靴、そして2晩続く舞踏会。
「ガラスの靴(pantoufle de verre)」については、長年「リスの毛皮(vair)」を間違えたという説もありましたが、実際はペロー以前の物語にもガラスの靴が登場しているため、彼が正確に伝承を記録した可能性もあります。とはいえ、研究者の間でも結論は出ておらず、今も議論が続いています。
また、魔法で現れたドレスや馬車は時間とともに消えてしまうのに、「靴だけは消えなかった」のは、靴が魔法ではなく「与えられたもの」と記述されていることが理由かもしれません。
ドイツのアシェンプテル ― グリム童話版

タイトルは「アシェンプテル(Aschenputtel)」。ドイツ語で「灰をかぶった娘」という意味です。
- カボチャも魔法も登場しない
→ 主人公を助けるのは母親の墓のそばに生えたハシバミの木と、そこに集まる白い鳩たち。 - 靴はガラスではなく、銀と金
→ 1晩目に銀の靴、2晩目に金の靴を履きます。 - 靴を残すのは偶然ではない
→ 王子が階段にピッチ(粘着剤)を塗って靴が脱げないように細工します。 - 姉たちは足を切ってまで靴を履こうとする
→ 爪先や踵を切り落としますが、靴から血が滲み出て見破られます。 - 結婚式での復讐
→ 姉たちは白鳩に両目をくり貫かれ、失明してしまいます。
このように、ペロー版よりもずっと残酷で、善悪の報いがはっきり描かれているのがグリム版の特徴です。なお、グリム童話には複数のバージョンが存在しており、すべてがこの通りというわけではない点にもご注意ください。
イタリアのチェネレントラ ― バジーレ版

ペローやグリムよりも古い、17世紀のナポリで書かれた『ペンタメローネ』に登場する「灰かぶり猫(チェネレントラ)」。
- 主人公ゼゾッラ(シンデレラ)が最初の継母を殺す
→ 新しい継母(元は先生)と手を組んで、旧継母を衣装箱の蓋で殺害するという衝撃の始まり。 - ナツメの木の魔法で着飾る
→ 父が旅先で持ち帰ったナツメの苗を育て、その木から美しい衣装を得ます。 - 国王に見初められるのはお祭りの場
→ 舞踏会ではなく、祝祭で王の目に留まります。 - 落とす靴は木靴(ピァネッレ)
→ 17世紀イタリアの女性が履いた木製の靴です。
ペロー版やグリム版のように「純粋で健気な主人公」というよりも、ゼゾッラには複雑な感情や行動が見られ、物語も一層ダークな印象を与えます。
おわりに:シンデレラはひとつじゃない
私たちがよく知る「シンデレラ」の物語は、ペロー版をベースにしたディズニー映画によって広まりました。けれど、歴史をさかのぼるとその姿は大きく変わっていきます。
善と悪、魔法と現実、残酷さと優しさ——。それぞれの物語が伝えようとしているものは少しずつ違い、読めば読むほどシンデレラという存在の奥深さを感じさせてくれます。
もし「いつか原作を読んでみたい」と思った方は、以下の本がおすすめです。
- 『完訳 グリム童話集1』(岩波文庫)
- 『眠れる森の美女 ―シャルル・ペロー童話集―』(新潮文庫)
- 『ペンタメローネ(五日物語)』ジャンバッティスタ・バジーレ著(平凡社ライブラリー)
まだ知られていない物語の一面に出会えるかもしれません。
これからも一緒に、童話や神話の世界を旅していきましょう。